『マネジメント』と薪作業:チームで薪を割ることが教える役割分担

薪ストーブ

はじめに:薪を割るチームにこそマネジメントの本質がある

薪割りというと「個人の作業」を思い浮かべる人が多いかもしれません。斧を振り下ろし、無心に木を割る――確かに一人で黙々と取り組む姿は絵になります。
しかし、冬の暖房を支える量の薪を用意しようとすれば、これは立派なチーム作業になります。伐採、運搬、玉切り、割り、乾燥、保管――そのすべてを一人で行うのは非効率です。
そんな「チームで行う薪作業」こそ、ピーター・ドラッカーの名著『マネジメント』が説く「組織の成果を上げる仕組み」を体感的に理解できる現場なのです。


1. マネジメントの目的は「人を生かすこと」

ドラッカーは『マネジメント』でこう述べています。

「マネジメントの目的は、人の強みを発揮させ、弱みを意味のないものにすることである。」

薪作業をチームで行うと、まさにこの言葉の意味が実感できます。
たとえば、斧を振る力のある人がいれば、丸太を軽トラで運ぶ運転や積み込みが得意な人もいます。チェーンソーの扱いに長けた人、木の性質を見極める目を持つ人、作業後の薪積みを美しく仕上げる几帳面な人――それぞれに「得意」があります。

一人ひとりの強みを活かし、弱みを補い合う。それができて初めて、チームは効率的に薪を生産できるのです。
「誰がどの仕事をすべきか」を見極めることが、マネジメントの第一歩です。


2. 目的の共有:薪作業の「なぜ」を話し合う

ドラッカーは「マネジメントの出発点は目的の明確化である」とも説いています。
薪を割るときも、単に「割ること」自体が目的ではありません。目的は「冬に家を暖かく保つこと」や「家族・仲間の安心を支えること」です。

ところが、目的が共有されていないチームでは、「とにかく早く割ればいい」「俺のほうが多く割った」など、個々の成果を競いがちになります。結果として、全体の効率は下がり、事故や不満が生まれることさえあります。

逆に、「この冬、みんなで暖かく過ごすために薪を用意する」という共通の目的が浸透していれば、作業の意味づけが変わります。
マネジメントにおけるリーダーの重要な役割は、全員に“なぜやるのか”を伝えること
薪作業の現場では、炎を囲んで語るその一言が、メンバーの意識を一つにまとめます。


3. 役割分担:成果を上げるための仕組み

『マネジメント』では、組織を成果に導くには「責任と権限の明確化」が欠かせないとされています。

薪作業でも同じです。
誰が木を伐り、誰が運び、誰が割り、誰が積むのか。
「全員でやればなんとかなる」では、最初のうちはうまく回っても、いずれ混乱します。

役割を決めることは、単なる“分担”ではありません。それは信頼の証です。
「あなたにこの仕事を任せる」と伝えることで、責任感と誇りが生まれます。

さらに重要なのは、作業の流れを「見える化」すること。
丸太が次々と運ばれ、割られ、積まれていく。その一連の流れがスムーズに回っていると、チーム全体が気持ちよく動けます。
この状態こそ、ドラッカーが言う「成果を生み出すシステム」であり、マネジメントの真髄です。


4. リーダーシップ:命令よりも場を整える

薪作業の現場では、リーダーが声を荒げて指示を出す必要はほとんどありません。
むしろ大切なのは、「みんなが自発的に動ける場」を整えることです。

ドラッカーは「リーダーとは人を鼓舞し、成果を生み出す環境を整える者」と語っています。

たとえば、

  • チェーンソーの燃料が切れないように管理する
  • 作業場所が危険にならないように整備する
  • 休憩のタイミングを判断して声をかける

こうした「目立たない支援」が、チームの成果を最大化します。
つまりリーダーとは、「炎のそばで静かに全体を見渡す存在」です。
その姿勢がメンバーに安心感を与え、自然と協力の輪が生まれます。


5. フィードバックと改善:毎年の炎が教えること

マネジメントとは、一度決めた仕組みを維持することではありません。
ドラッカーの言葉を借りれば、「成果を上げ続けるために、絶えず学び、変化し続けること」です。

薪作業でも同じです。
「去年より乾燥がうまくいった」「あの斧は使いづらかった」「積み方を工夫したらスペースが減った」――こうした小さなフィードバックが、翌年の改善につながります。

つまり、炎のゆらぎはチームの成長曲線です。
毎年少しずつやり方を変えながら、より効率的で安全な方法を模索する。
それは、まさにドラッカーが語った「継続的改善(continuous improvement)」の実践です。


6. チームの幸福:成果を超えた価値

薪作業の終わり、全員で焚き火を囲みながら飲むコーヒーの一杯。
そこに流れるのは、「やり切った」という充足感と、「自分はこのチームの一員だ」という誇りです。

ドラッカーは「成果とは、外部の世界における変化である」と述べました。
つまり、チームの成果は「割った薪の量」だけではなく、「関係性の質」や「共同体としての成熟」にも表れます。

焚き火を囲みながら笑い合う時間こそ、マネジメントがもたらした“人間的成果”なのです。
組織の目的が「人を生かす」ことであるなら、薪作業の現場にこそその答えがあると言えるでしょう。


まとめ:マネジメントの炎を絶やさない

『マネジメント』と薪作業――一見遠いようで、実は深くつながっています。

  • 目的の共有(なぜ割るのか)
  • 役割分担(誰が何をするのか)
  • 環境整備(どう動きやすくするか)
  • 改善と学び(どう良くしていくか)

これらを意識すれば、薪割りは単なる労働ではなく、「人が生き生きと協働する場」になります。
そして、チームで割った薪の炎は、リーダーシップとマネジメントの象徴として、長く静かに燃え続けるのです。

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