地域経済を支える「薪」というエネルギー
1. なぜ今「里山資本主義」なのか
『里山資本主義』という言葉は、「お金」や「グローバル経済」だけに頼らず、地域にすでに存在する資源を活かして豊かに生きる考え方として注目されてきました。
里山、森林、水、土、人のつながり。これらは長い間、価値がないもの、もしくは「お金にならないもの」として扱われがちでした。
しかしエネルギー価格の高騰、災害リスク、人口減少といった現実の中で、
**「地域にあるものを、地域で回す」**という思想が、理想論ではなく現実的な選択肢として浮かび上がってきています。
その象徴的な存在のひとつが、薪ストーブと薪です。
2. 薪は「古い燃料」ではない
薪と聞くと、
「昔の暖房」「田舎のもの」「非効率」
そんなイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし里山資本主義の視点で見ると、薪は極めて現代的な地域エネルギー資源です。
- 地域の森林から生まれる
- 輸入に頼らない
- 加工・流通・消費が地域内で完結できる
- 人の手仕事を生む
薪は、ただ燃える木ではありません。
**地域にお金と仕事と循環を生み出す「資本」**なのです。
3. 薪が地域経済を支える仕組み
① 森林整備が仕事になる
日本の森林の多くは、手入れ不足によって荒れています。
本来、間伐されるべき木が放置され、山は暗く、災害リスクも高まっています。
薪需要があることで、
- 間伐 → 薪材として活用
- 森林整備 → 仕事と収入になる
- 山が健康になる
という好循環が生まれます。
「木を切る=環境破壊」ではなく、
**「使うから守れる森」**へと価値観が変わるのです。
② 地域内でお金が回る
灯油やガス、電気代は、多くが地域の外へ流れていきます。
一方、薪はどうでしょうか。
- 地元の山
- 地元の薪屋
- 地元の人の手
これらを通じて作られた薪代は、ほぼそのまま地域に残ります。
薪ストーブ1台があることで、
- 薪の販売
- 薪割り・運搬
- チェーンソー整備
- 軽トラック・道具
と、関連する小さな経済活動が連鎖的に生まれます。
これは里山資本主義が目指す**「小さくても強い経済」**そのものです。
4. 薪ストーブは「エネルギーを自分でつくる装置」
薪ストーブの本質は、暖房器具ではありません。
それはエネルギーを自分たちの手に取り戻す装置です。
- 薪を集める
- 乾燥させる
- 火を育てる
この一連のプロセスは、エネルギーの正体を「見える化」します。
スイッチひとつで得られる暖かさではなく、
手間と時間の先にある熱。
それは消費者から、担い手へと立場を変える体験でもあります。
5. 災害時にも強い「里山エネルギー」
近年、日本各地で災害が頻発しています。
停電・燃料不足・物流停止。
そんなとき、薪ストーブは静かに力を発揮します。
- 電気不要
- 地域に薪があれば使える
- 調理・暖房を兼ねる
これは「非常用」ではなく、
日常で使っているからこそ、非常時にも使える強さです。
里山資本主義は、効率よりもしなやかさと冗長性を重視します。
薪ストーブはその思想を、暮らしの中で体現しています。
6. 薪を使うことは「文化」を守ること
薪割り、火入れ、灰の処理。
これらは効率だけを考えれば、省かれてきた行為です。
しかしその中には、
- 季節を感じる
- 家族で火を囲む
- 子どもが火を学ぶ
といった、お金では測れない価値が詰まっています。
里山資本主義が大切にするのは、GDPでは測れない豊かさ。
薪ストーブのある暮らしは、経済と文化を同時に支える行為なのです。
7. 薪ストーブ初心者ができる「小さな里山資本主義」
「いきなり山を持つのは無理」
「全部自給は難しい」
それで問題ありません。
里山資本主義は、できるところから関わる思想です。
- 地元の薪屋から薪を買う
- 間伐材薪を選ぶ
- 薪イベントや薪割り体験に参加する
こうした一歩一歩が、地域の循環を支えます。
完璧を目指す必要はありません。
関係を持つこと自体が価値なのです。
8. おわりに:薪は「地域の未来を燃やす」
薪ストーブの炎は、
ただ部屋を暖めているだけではありません。
それは、
- 森林と人をつなぎ
- 経済と暮らしをつなぎ
- 過去と未来をつなぐ
小さな火種です。
『里山資本主義』が示すのは、
「大きな成長」ではなく、足元の豊かさ。
薪という身近な資源を通じて、
私たちはもう一度、地域で生きる力を取り戻せるのかもしれません。
炎の揺らぎの向こうに、
静かに、しかし確かに、地域の未来が燃えています。


