薪ストーブユーザーにとって、薪材の確保は永遠のテーマです。広葉樹の王道といえばナラやクヌギですが、実際に山や庭で手に入るのは「雑木」と呼ばれるさまざまな木。
「雑木は火持ちが悪い」「煙が多い」というイメージがありますが、実際に割って乾かし、焚いてみると「意外に使える!」と気づかされる種類も少なくありません。
今回は、私が実際に焚いてみて「これは薪としてアリ!」と感じた 意外に良かった雑木ベスト5 を紹介します。
総論:雑木を“戦略的に”使うコツ
- 水分計で15〜20%台を目標(割り面で測定)。
- 単独運用よりブレンド運用:着火性が良い・火持ちが良いを混ぜる。
- シーン別に使い分け:立ち上げ(朝・帰宅直後)、巡航(夜の団らん)、熾き(就寝前)で薪を入れ替える。
- 1本の“役割”を決める:「今は温度を上げたい」「炎を落ち着かせたい」「熾きを増やしたい」。
1. サクラ(ヤマザクラ・ソメイヨシノ等)
キャラ:軽〜中密度・香り良・割りやすい・乾きやすい
おすすめ用途:立ち上げ/巡航の前半・薪料理のスモーク寄り
入手と加工
- 伐採・剪定材で出会いやすい。皮下に水分が残りやすいので「皮を一部はぐ→割る→細めに」が乾燥促進に効く。
- 玉切り長さはストーブ炉室−3〜5cm。**径が太い丸太は“十字割り→扇型”**にすると乾きが速い。
乾燥戦略
- 目安:1年(風通し良い単列積み)。春〜初夏に割って翌冬デビューが現実的。
燃焼チューニング
- 立ち上げ:中割りサクラ+細薪(針葉樹)で一次空気多め→温度を早く上げる。
- 巡航:二次空気少し開けるとゆらぎが綺麗で“見せる炎”。
料理との相性
- ほんのり甘い香り。ベーコン・豚・サーモンに◎。強すぎないスモークが家庭向き。
注意点
- 乾燥が甘いと煤が付きやすい。ガラス掃除の頻度で“乾燥度のバロメータ”に。
2. クスノキ
キャラ:中密度・樟脳系の香気・割りは中難・火力しっかり
おすすめ用途:巡航中盤・部屋の空気に“木の匂い”を少し足したい夜
入手と加工
- 庭木・街路樹の大枝処分材でまとまって入ることも。ねじれ木理がある個体はくさび+大斧推奨。
乾燥戦略
- 目安:1.5〜2年。油分・香気成分がある分、長め乾燥で“角が取れた香り”に。
燃焼チューニング
- 含油で火力は出るが、高温域で一気に燃えやすい。
- **太め×1本+密度高い広葉樹1本(ナラ等)**で“息の長い巡航”に。
料理との相性
- 「芳香を少し」がコツ。ピザ炉で立ち上げ〜序盤だけ使い、香りをつけ過ぎない。
注意点
- 香りに敏感な家族がいる場合は最初は短時間トライ→問題なければ本格採用。
3. イチョウ
キャラ:軽め・着火良・乾くのが速い・火持ちは短め
おすすめ用途:朝の立ち上げ/帰宅直後の温度上げ、焚き付け強化
入手と加工
- 街路樹・公園・寺社の剪定で出会う。軽いのに繊維は素直で、細割りが楽。
乾燥戦略
- 目安:半年〜1年。春割り→年内焚きも狙える“早仕上げ要員”。
燃焼チューニング
- 小割を数本まとめて投入→一次空気やや多めで素早く炉温UP。
- 巡航は**他の薪の“補助ブースター”**として1〜2本足すのが美味しい使い方。
料理との相性
- 香りは控えめで食事中でも違和感が少ない。煮込み・グリルの下火づくりに。
注意点
- 火持ちは短い。就寝前には向かないので熾き担当の薪(重め広葉樹)とセットで。
4. プラタナス(スズカケノキ)
キャラ:中密度・クセのない煙・火持ち“雑木として優秀”
おすすめ用途:巡航の芯/読書・談笑の“静かな炎”
入手と加工
- 街路樹伐採の大径材に遭遇することが多い。樹皮は厚めで乾燥の妨げになることも→皮を所々はぐと◎。
乾燥戦略
- 目安:1〜1.5年。単列・日当たり・腰高ラックでスーッと乾く。
燃焼チューニング
- 中割りを2〜3本で穏やかな長持ち。二次空気を控えめにすると炎が落ち着き、スス少なめ。
料理との相性
- 香りがニュートラルなのでオーブン・煮込みの温度維持に最適。匂いが料理に干渉しにくい。
注意点
- 大径は芯割りを最優先。外周だけ乾いて芯が湿る“なんちゃって乾燥”を避ける。
5. ケヤキ
キャラ:高密度・超丈夫・割り難いが“火持ちの王”級
おすすめ用途:就寝前の“ラスボス”/厳寒夜の巡航
入手と加工
- 伐採が出るとまとめて入る。強靭な木理で真っ向割りが刺さらないこともしばしば。
- 攻略法:
- 玉木を立てて“年輪の割れ”を観察→既存の割れ目にくさび。
- 外周から“はぎ取る”ように扇状へ。
- 冬の凍結朝は割れやすい(繊維が脆くなる)。
乾燥戦略
- 目安:2年。太い玉は初年度は粗割り→翌春に再割りで芯までスッキリ。
燃焼チューニング
- 中太〜太割り1〜2本+熾き多めで長時間巡航。
- 二次空気を微開にして炎を低く抑え、輻射をじわじわ引き出す。
料理との相性
- 強い下火・熾き力が魅力。ダッチオーブン・長時間ローストに。
注意点
- チェーンソー目立てはこまめに(硬材で刃が鈍る)。斧・くさびの安全装備は必須。
使い分けレシピ(時間帯×目的)
- 朝(素早い昇温):イチョウ細割り+サクラ中割り
- 夕方(立ち上げ〜巡航):サクラ中割り→プラタナスで安定
- 夜(長持ち炎):プラタナス太め+ケヤキ太割り
- 就寝前(熾き残し):ケヤキ大割りを1本ドン
- 香りを楽しむ日:クスノキを序盤だけ混ぜて雰囲気作り
乾燥を早める“地味だけど効く”5ワザ
- 単列積み&南面配置:壁から15〜20cm離し風の通り道を作る。
- 屋根は薄く・側面は開放:ブルーシートは上だけ、側面密閉はNG。
- 割り面を上に:最初の1〜2週間は割り面上向きで蒸散促進。
- 上流に“乾燥リーダー”:軽めのイチョウ・サクラを上段に置くと対流が生まれ全体が乾く。
- 再割り:初夏にもう一度太割り→中割りへ。乾燥カーブが一段進む。
よくあるQ&A
Q1. クスノキの香り、部屋に残りませんか?
A. 長期乾燥+高温巡航で角が取れ、残り香は穏やかに。敏感な家族がいる場合は短時間運用で様子見→問題なければ本採用。
Q2. イチョウは“臭い”と聞きますが?
A. 臭いの元は種の外皮で、木材自体は乾燥すれば穏やか。薪にすると扱いやすい部類です。
Q3. ケヤキが全然割れません
A. くさび2本体制で既存の割れ目を広げる→外周からはぎ取る。凍て朝や年輪の浅い側から攻めると成功率UP。
Q4. 雑木は煤が増えますか?
A. 乾燥不足が最大要因。MC 15〜20%を守り、低温長時間燃焼を避ける運用なら煤は大幅に減ります。
Q5. どの組み合わせが“家族の居心地”に効きますか?
A. **サクラ(彩り)+プラタナス(安定)+少量クスノキ(香り)**の“雰囲気三重奏”が鉄板。
ベスト5の比較早見表
樹種 | 乾燥目安 | 割りやすさ | 火力 | 火持ち | 香り/クセ | 得意シーン |
---|---|---|---|---|---|---|
サクラ | 約1年 | ◎ | ○ | ○ | 甘く上品 | 立ち上げ〜巡航・料理 |
クスノキ | 1.5〜2年 | △ | ◎ | ○ | 樟脳系・使い方次第 | 巡航・香り演出 |
イチョウ | 0.5〜1年 | ○ | ○ | △ | 控えめ | 朝の昇温・補助ブースト |
プラタナス | 1〜1.5年 | ○ | ○ | ○ | ほぼ無臭 | 静かな巡航・温度維持 |
ケヤキ | 約2年 | × | ◎ | ◎ | ややスモーキー | 厳寒夜・就寝前 |
※火力・火持ちは相対評価(ナラを基準に近い感覚値)。乾燥期間は割りサイズ・置き場環境で前後します。
安全メモ&メンテ
- 低温&含水薪はタール堆積の主因。温度計・煙突温度を見ながら高温域を“毎日どこかで”確保。
- 煙突掃除:雑木運用でもシーズン中1回+オフ1回を基本ラインに。
- 灰の使い道:カリ分豊富でぬか床のpH調整・畑の酸度矯正に活用(入れ過ぎ注意)。
もっと意外な“次点”候補(短評)
- ハコネウツギ:細枝の焚き付け要員として優秀。
- カキ:やや重め、火持ち○。庭木伐採で入ればラッキー。
- ニセアカシア(ハリエンジュ):高火力・高持続。ただしトゲ&割材の反りに注意。
- ムクノキ:中密度で扱いやすい“万能雑木”。