北欧・ドイツに学ぶ森林エネルギー政策           ― なぜ彼らは「木を燃やす」ことを選んだのか

薪ストーブ

1. 北欧・ドイツでは「薪」は周縁ではない

日本では、薪ストーブはまだ
「趣味」「贅沢」「一部の人のもの」
という位置づけで見られがちです。

一方、北欧諸国(スウェーデン、フィンランド、ノルウェー)やドイツでは、**森林バイオマスエネルギーは明確に“社会インフラ”**として扱われています。

  • 家庭用薪・ペレット暖房
  • 地域熱供給(バイオマスボイラー)
  • 森林管理とエネルギー政策の一体運用

彼らにとって「木を燃やすこと」は、懐古ではなく国家戦略の一部です。


2. 北欧:森林=エネルギー資本という発想

■ スウェーデン・フィンランドの特徴

北欧では、森林は単なる自然保護対象ではありません。
**「使い続けることで価値を生む再生可能資源」**として明確に位置づけられています。

  • 成長量 > 伐採量(必ず成長が上回る管理)
  • 間伐材・端材は燃料へ
  • 木材 → 建築、残り → エネルギー

この「カスケード利用(段階利用)」が徹底されています。

つまり、

  1. 良材は建築・製材へ
  2. 残材は薪・チップ・ペレットへ
  3. 最後は熱として使い切る

無駄がない=経済合理性があるのです。


■ 家庭用薪ストーブの社会的地位

北欧の住宅では、薪ストーブは「補助暖房」ではありません。

  • 電気暖房+薪ストーブの併用
  • 災害・寒波への備え
  • 生活の一部としての炎

これは「趣味」ではなく、リスク分散型エネルギー設計です。

里山資本主義で言う

「大きなシステムに依存しすぎない」

という思想が、すでに制度として組み込まれています。


3. ドイツ:市民が支えるバイオマス熱供給

■ ドイツの特徴は「地域熱供給」

ドイツで特に注目すべきは、**薪・木質チップを使った地域暖房(Nahwärme)**です。

  • 村や小さな町単位で
  • 森林組合が燃料を供給
  • ボイラーで作った熱をパイプで各家庭へ

これは電気ではなく「熱」を共有する仕組みです。

結果として、

  • 化石燃料依存の低下
  • エネルギー価格の安定
  • 地元雇用の創出

が同時に実現しています。


■ 市民参加型エネルギーという考え方

ドイツでは、エネルギーは「買うもの」ではなく
**「地域で支えるもの」**という意識が根付いています。

  • 森林所有者
  • 薪・チップ生産者
  • 利用する住民

全員が、エネルギー循環の一部です。

これは、里山資本主義が描く
**「顔の見える経済」**が、すでに実装されている例だと言えます。


4. 日本との決定的な違いは「思想の差」

■ 日本:守るか、使わないか

日本では長らく、

  • 森林は保護すべきもの
  • 木を切るのは悪
  • エネルギーは外から買うもの

という発想が主流でした。

その結果、

  • 森林は荒れ
  • 林業は衰退し
  • エネルギーは輸入依存

という矛盾が生まれています。


■ 北欧・ドイツ:使いながら守る

一方で北欧・ドイツは、

  • 使うから管理する
  • 管理するから森が育つ
  • 森が育つから使い続けられる

という循環を、制度と文化の両面で支えています。

これは単なる政策の違いではなく、
「自然と経済を切り離さない思想」の違いです。


5. 日本に薪ストーブが持つ本当の意味

日本で薪ストーブを使うことは、
北欧やドイツの「真似」ではありません。

それは、

  • 放置された森林を意識すること
  • 地域の薪にお金を払うこと
  • エネルギーを自分事にすること

つまり、日本版・里山資本主義を暮らしの中で始める行為です。

一台の薪ストーブが、

  • エネルギー政策を考え
  • 森林管理を考え
  • 地域経済を考える

入口になる。

これはとても静かで、しかし確かな変化です。


6. おわりに:制度がなくても、火は起こせる

北欧やドイツには、
整った制度、長い歴史、社会的合意があります。

日本には、それがまだ十分ではありません。

しかし――
火を起こすこと自体は、誰にでもできます。

  • 地元の薪を使う
  • 薪ストーブを選ぶ
  • 森と関わる

その一つひとつが、
日本の里山資本主義を「机上の理論」から
現実の暮らしへと引き下ろしていく力になります。

北欧やドイツが示しているのは、
「特別な国だからできた」のではなく、
**「選び続けた結果、今がある」**という事実です。

日本でも、その選択は、すでに始められます。
薪ストーブの前で揺れる炎は、
その第一歩として、十分すぎるほどの光を放っています。

タイトルとURLをコピーしました