はじめに
日本の「里山」とヨーロッパの「森林」。
どちらも人間の暮らしと森林との関係を考えるうえで重要な存在です。
しかし両者は同じものではありません。
日本の里山は集落を取り囲む二次林、農地、ため池、草原などが組み合わさった人の暮らしと自然が近接する景観です。
環境省は里地里山を「原生的な自然と都市との中間」に位置し農林業などの人間活動によって形成・維持されてきた地域と説明しています。
一方、ヨーロッパの森林も決して「人間が手をつけなかった自然」だけではありません。
ヨーロッパでは長い歴史の中で薪、建築材、家畜の放牧、狩猟、農業、木炭生産などを目的として森林が利用されてきました。
森林を持続的に利用するための制度や技術もこうした歴史の中から発達しています。
欧州環境機関はヨーロッパの森林が何世紀にもわたって利用され17世紀以降には森林被覆を維持・回復するための持続的な森林管理が発達したと説明しています。
つまり、日本にもヨーロッパにも
「森から資源を得ながら暮らす」
という共通した歴史があります。
しかしその方法には違いがあります。
日本では集落・水田・ため池・雑木林などが一体となった里山景観が形成されました。
ヨーロッパでは森林そのものを対象にした林業、共同利用、放牧、薪炭利用、狩猟など多様な森林利用の仕組みが地域ごとに発達しました。
本記事では日本の里山文化と欧州の森林文化について歴史的な森林利用、薪、農業、生物多様性、共同利用、森林管理などの観点から比較します。
この記事でわかること
- 日本の里山とは何か
- 日本人が里山から何を得てきたのか
- 里山の雑木林がどのように管理されていたのか
- ヨーロッパでは森林がどのように利用されてきたのか
- 欧州における薪と薪炭林の歴史
- 日本と欧州に共通する「コッピス」という森林管理
- 共同利用という考え方の違い
- 森林と生物多様性の関係
- 現代になって日本と欧州の森林利用がどのように変化したのか
結論
日本の里山文化と欧州の森林文化には共通点があります。
どちらも人間が森林から薪、木材、食料、飼料などの資源を得ながら長期間にわたって森林を利用してきました。
また森林を一度にすべて伐採するのではなく再生する能力を利用しながら繰り返し利用する管理方法も日本とヨーロッパの双方に存在しました。
日本の里山では雑木林を一定期間ごとに伐採し切り株から再び芽を出させる「萌芽更新」を利用した薪炭林管理が行われていました。
環境省の資料では里山の伝統的なコナラなどの二次林で10~30年程度の周期で伐採しその後に切り株から新しい芽が成長する管理方法が紹介されています。
ヨーロッパでもコッピスと呼ばれる萌芽更新を利用した森林管理が長く行われてきました。
特に産業革命以前のヨーロッパでは薪への需要が高く、コッピス林が広く利用されていました。
ただし両者には大きな違いがあります。
日本の里山は森林だけではなく農地、ため池、草原、集落などを含むモザイク状の生活景観として形成されました。
一方、ヨーロッパでは森林を独立した資源として管理する林業制度や所有制度が発達し木材生産だけでなく水源保全、放牧、狩猟、自然保護、レクリエーションなど複数の目的で森林が管理されてきました。
したがって日本と欧州は「人と森が共存してきた」という点では共通していますがその具体的な仕組みはそれぞれの自然環境、農業、社会制度、土地所有、エネルギー利用の歴史によって異なります。
- 日本の里山とは何か
- 里山は自然のままの森林ではない
- 薪は里山文化を支えた重要な資源だった
- 雑木林は定期的に伐採されていた
- 里山の生物多様性は人間活動とも関係していた
- 欧州の森林も人間によって大きく変化してきた
- 欧州では森林を「資源」として管理する制度が発達した
- 欧州にも「薪を生産する森」があった
- 日本と欧州に共通する「コッピス」
- 欧州では森林の共同利用も発達した
- 日本にも共同利用の森林が存在した
- ただし、日本の里山と欧州森林は構造が違う
- 欧州の森林は「多目的利用」が基本になっている
- 森林には文化的な意味もあった
- 日本と欧州に共通する「森から得る生活資源」
- 薪文化から見る日本と欧州
- しかし近代化によって森林利用は変化した
- 欧州でも伝統的森林管理は衰退した
- 「人が利用しなくなれば自然が豊かになる」とは限らない
- 日本の里山文化と欧州森林文化の大きな共通点
- 日本と欧州の大きな違い
- 現在の日本の里山
- 現在の欧州森林
- 「人と森が共存する」という言葉だけでは比較できない
- 薪ストーブから見る日本と欧州の森林文化
- 日本の里山と欧州の森林から分かること
- まとめ
日本の里山とは何か
まず里山という言葉の意味を確認する必要があります。
里山は単純に「人が住んでいる近くの山」を意味する言葉ではありません。
環境省は里地里山について集落とその周辺の二次林、農地、ため池、草原などが組み合わさった地域と説明しています。
これらは農林業などを通じた人間の働きかけによって形成・維持されてきました。
つまり里山は「森林」だけではありません。
森林と農地。
森林と水田。
森林とため池。
森林と草地。
森林と集落。
これらが一つの地域の中でつながっています。
そのため里山を理解するには森だけを見るのではなく人間の生活と周囲の自然環境を一体として見る必要があります。
里山は自然のままの森林ではない
里山について重要なのは現在の里山景観の一部が人間による長期間の利用によって形成されたことです。
環境省は里地里山の環境が長い歴史の中で人々の働きかけによって形成されたとしています。
そこでは食料や木材などの自然資源が得られ景観や文化の維持にも関係してきました。
たとえば雑木林では
- 薪
- 木炭
- 落ち葉
- 柴
- きのこ
- 木材
などが利用されました。
落ち葉は農地に戻され燃料として使われた木は灰となり生活の中で利用されました。
このような資源の循環が里山の景観を維持する要因の一つとなりました。
薪は里山文化を支えた重要な資源だった
現代では家庭の暖房や調理に電気、ガス、灯油などが利用されます。
しかし化石燃料や電力網が現在ほど普及していなかった時代には木質燃料が重要でした。
里山の雑木林は薪や木炭の供給源となりました。
木を伐る。
薪にする。
燃やす。
灰が残る。
灰などを農業に利用する。
こうした資源循環が農村生活の中に組み込まれていました。
環境省も里地里山が人々の暮らしに必要な燃料、食料、資材、肥料などを自然から得るための人間活動によって形成・維持されてきたと説明しています。
つまり里山の森林は「景色を見るための森」ではありませんでした。
生活を維持するための資源供給源だったのです。
雑木林は定期的に伐採されていた
日本の里山文化を理解するうえで重要なのが雑木林の伐採です。
伝統的な薪炭林では木を伐採して終わりではありません。
切り株から出てくる新しい芽を利用し森林を再生させながら再び伐採する方法が使われました。
環境省の里山資料では伝統的なコッピス管理について木を10~30年程度の周期で伐採し切り株から新しい芽が成長する仕組みが説明されています。
これは現在の薪ストーブユーザーにも興味深い仕組みです。
森林を燃料として利用する場合、木が再生できる状態を維持することが重要だからです。
里山の生物多様性は人間活動とも関係していた
里山には森林だけではなく農地、草地、水辺などさまざまな環境が存在します。
そのため一つの地域の中に異なる環境を利用する生物が生息できます。
さらに雑木林を定期的に伐採することで森林の中に明るい場所が生まれます。
伐採直後。
若い林。
成長した林。
草地。
農地。
水辺。
こうした異なる環境が隣接することで多様な生物が生息できる条件が生まれました。
環境省は里地里山が人間による適度な働きかけによって形成・維持され、多くの野生生物の生息・生育環境となってきたとしています。
ここで重要なのは「人間が手を入れた自然=自然破壊」という単純な関係ではないことです。
日本の里山では一定の人間活動そのものが現在知られている生態系の一部を形成してきました。
欧州の森林も人間によって大きく変化してきた
ヨーロッパの森林についても「昔から現在のような森林だった」と考えることはできません。
FAOによるヨーロッパ森林の歴史資料では先史時代にはヨーロッパ大陸の80%以上が森林に覆われていたとされその後、農業の拡大や人口増加、産業革命などによって森林面積が大きく減少したと説明されています。
19世紀には森林面積が4分の1未満にまで減少したとする歴史的推計も示されています。
その後19世紀半ば以降には森林の重要性が再認識され再植林や持続的な森林管理が進められました。
現在の欧州の森林を理解するには
森林の減少
だけでなく、
森林の再生と管理
という歴史も重要です。
欧州では森林を「資源」として管理する制度が発達した
ヨーロッパでは森林資源への需要が高まるにつれ森林を継続的に利用するための制度や技術が発達しました。
欧州議会の資料では森林の過剰利用や森林破壊の歴史を背景として森林資源を再生させ森林を維持するための規則や技術が発達したことが説明されています。
森林管理の目的も時代とともに広がりました。
初期には木材生産が重要でした。
その後
- 土壌保全
- 水資源保全
- 生物多様性
- 景観
- レクリエーション
- 文化財保全
などが森林管理の目的として加えられていきました。
欧州にも「薪を生産する森」があった
ヨーロッパの森林文化を考えるとき薪の存在は非常に重要です。
産業革命以前のヨーロッパでは家庭や産業に大量の薪が必要でした。
そのため木を短い周期で伐採して再生させるコッピス林が広く利用されました。
南モラヴィアの森林史を研究した論文では産業化以前の人口密度が高いヨーロッパ低地では薪や建築材への需要が高くコッピス林が何世紀にもわたって広く利用されていたとされています。
コッピスでは木を伐採すると切り株や根から新しい芽が出ます。
その芽を育て再び伐採する。
このサイクルを繰り返します。
日本の薪炭林に見られた萌芽更新と基本的な生物学的仕組みには共通点があります。
日本と欧州に共通する「コッピス」
ここは日本の里山文化と欧州の森林文化を比較するうえで非常に重要なポイントです。
日本の里山ではコナラやクヌギなどの落葉広葉樹を伐採し切り株から出る萌芽を利用する森林管理が行われました。
ヨーロッパでもコッピスと呼ばれる同様の森林管理が行われました。
つまり、
木を伐る
↓
切り株から芽が出る
↓
成長させる
↓
再び伐る
という仕組みは地域が異なっても成立しました。
ただし樹種、伐採周期、所有制度、利用目的などは地域によって異なります。
したがって「日本の里山と欧州のコッピスは同じもの」とすることはできません。
共通するのは森林の萌芽更新能力を利用して木質資源を継続的に得るという管理技術です。
欧州では森林の共同利用も発達した
ヨーロッパの森林文化を特徴づけるものの一つに、共同利用があります。
地域によっては森林を個人だけでなく共同体が利用する制度が存在しました。
薪を採る。
家畜を放牧する。
木材を得る。
木の実などを採取する。
こうした利用権が地域社会の制度として認められていた地域があります。
近年の研究でもイタリア、スコットランド、スロベニア、スウェーデンなどを含むヨーロッパ各地には多様な共同森林の仕組みが存在してきたことが示されています。
これは日本の入会林野など地域共同体による森林利用を考えるうえでも比較対象になります。
日本にも共同利用の森林が存在した
日本の農村では山林を個人だけでなく地域共同体が利用する仕組みがありました。
入会と呼ばれる共同利用では地域の住民が一定の森林や原野などから薪、柴、草などを採取する権利を持つ例がありました。
こうした仕組みは地域によって内容や権利関係が異なります。
重要なのは森林が単純に「所有者だけが利用する場所」ではなく地域社会の生活基盤として機能していたケースが存在したことです。
この点では日本とヨーロッパの森林文化には共通する部分があります。
ただし、日本の里山と欧州森林は構造が違う
ここまで共通点を見てきましたが両者を同一視することはできません。
日本の里山は森林だけで構成されていません。
農地、ため池、草地、集落などが複雑に組み合わさっています。
一方、ヨーロッパでは森林を単独の土地利用として管理する制度が発達しました。
もちろん欧州にも森林と農地、牧草地、集落が組み合わさった農村景観はあります。
しかし「里山」という日本独自の概念をそのまま欧州森林に当てはめることはできません。
欧州の森林は「多目的利用」が基本になっている
FAOの資料ではヨーロッパの森林管理には長い間、複数の目的が存在してきたとされています。
代表的なものとして
- 木材生産
- 土壌保護
- 水資源
- 放牧
- 狩猟
- 自然保護
- レクリエーション
などが挙げられています。
つまり、欧州の森林も「木を作る場所」だけではありません。
現在のEUでも森林は木材だけでなく食料、医薬品、材料、水、雇用、生物多様性、文化遺産など多様な役割を持つとされています。
EUの森林は域内土地面積の45%以上を占めると欧州委員会は説明しています。
森林には文化的な意味もあった
ヨーロッパでは森林が文化や文学、伝承とも結びついてきました。
FAOはヨーロッパの森林が伝説や童話、ロマン派の詩における象徴、歴史・考古学的遺跡、儀礼や精神的な場所などとして文化的な重要性を持つと説明しています。
つまり、欧州の森林文化は林業だけではありません。
森は
資源
であると同時に
文化的景観
でもありました。
この点は日本にも共通しています。
日本でも森は燃料や木材を供給する場所である一方、神社の鎮守の森、山岳信仰、祭礼、民話など文化や信仰と関係してきました。
日本と欧州に共通する「森から得る生活資源」
日本の里山と欧州の森林には生活資源を森から得るという共通点があります。
日本では
- 薪
- 木炭
- 木材
- 落ち葉
- 山菜
- きのこ
- 柴
などが利用されました。
欧州でも
- 薪
- 建築用木材
- 家畜用の飼料
- 放牧地
- 狩猟資源
- 木の実
- その他の非木材林産物
などが森林から得られてきました。
FAOは欧州森林について木材だけでなく多様な非木材資源やサービスが森林から提供されてきたとしています。
森林は単一の資源を提供する場所ではありませんでした。
薪文化から見る日本と欧州
薪という視点から比較すると両者の共通点がより分かりやすくなります。
薪は木を燃料として利用する非常に古いエネルギー源です。
日本では薪炭林が農村生活を支えました。
ヨーロッパでも産業化以前には薪への需要が森林管理を左右しました。
南モラヴィアの研究でも薪への高い需要がコッピス管理を発達させた重要な要因として説明されています。
つまり日本でも欧州でも
「燃料としての木」
が森林との関係を作る重要な要素だったのです。
しかし近代化によって森林利用は変化した
日本では戦後のエネルギー革命によって薪や木炭の利用が大きく減少しました。
環境省は戦後のエネルギー革命や農業形態の変化、農林業の担い手減少、高齢化などによって里地里山における人間活動が縮小し森林や農地の利用低下が進んだと説明しています。
その結果かつて利用されていた雑木林が放置されるケースが増えました。
薪を採らない。
炭を焼かない。
落ち葉を集めない。
草を刈らない。
こうした利用の減少は里山の景観や生態系にも影響を与えます。
欧州でも伝統的森林管理は衰退した
ヨーロッパでも同じような現象が起きています。
中央ヨーロッパでは伝統的なコッピス管理が近年大きく減少しています。
研究ではコッピス林が自然的価値だけでなく文化・歴史的価値も持つ一方、社会・経済条件の変化によって伝統的管理が衰退していると指摘されています。
つまり
薪を必要としなくなった社会では薪を生産するために作られていた森林管理も減少する
という現象が、日本とヨーロッパの双方で見られます。
これは非常に重要な共通点です。
「人が利用しなくなれば自然が豊かになる」とは限らない
森林については「人間が手を入れなければ自然が回復する」と考えられることがあります。
しかし里山や伝統的なコッピス林の場合にはそれほど単純ではありません。
日本の里山では薪炭林の利用が減ることで森林が密生し林床の光環境が変化するなど従来の里山環境に依存していた生物に影響が生じることがあります。
環境省も薪炭利用の減少による雑木林の放置が林床植物などの生息・生育環境の変化につながることを説明しています。
ヨーロッパのコッピス林でも伝統的管理の衰退によって自然的・文化的価値が失われる可能性が研究されています。
つまり特定の生態系が人間の利用によって形成された場合、その利用を完全に停止することが必ずしもその生態系の維持につながるとは限りません。
日本の里山文化と欧州森林文化の大きな共通点
ここまでを整理すると両者には次のような共通点があります。
- ① 森林を生活資源として利用した
薪や木材などを森林から得ました。
- ② 森林を再生させながら利用した
萌芽更新などを利用した管理方法が存在しました。
- ③ 森林と農業が結びついていた
森林資源は農村生活や農業とも関係していました。
- ④ 共同利用の仕組みが存在した
地域によって共同体による森林利用が行われました。
- ⑤ 森林には文化的価値もあった
森林は資源だけでなく文化や伝統とも結びついていました。
- ⑥ 近代化によって伝統的利用が減少した
化石燃料や新しい産業構造の普及などによって伝統的な森林利用が縮小しました。
日本と欧州の大きな違い
一方で違いも明確です。
日本の里山は
集落+農地+ため池+草地+二次林
という複合的な景観として理解されます。
一方、欧州の森林文化では
森林そのものの所有・管理・生産・共同利用
が制度的に発達してきました。
またヨーロッパは一つの文化圏ではありません。
北欧、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、東欧などでは森林の種類、気候、土地所有、農業、歴史、法律が大きく異なります。
そのため「ヨーロッパではこうだった」と一括りにすることには限界があります。
欧州委員会やFAOも森林管理には国・地域ごとの生態的、経済的、制度的、文化的な違いがあることを示しています。
現在の日本の里山
現在、日本の里山は大きな変化の中にあります。
人口減少。
高齢化。
農林業の担い手不足。
薪炭利用の減少。
農地利用の変化。
これらによって従来の人間活動が減っています。
環境省は里地里山の多くで人口減少や高齢化、産業構造の変化によって自然資源の循環が減少し生物多様性の劣化が懸念されているとしています。
そのため現在では従来の農林業者だけでなく都市住民、企業、学校、NPOなど多様な主体が里山の維持に参加する取り組みも進められています。
現在の欧州森林
欧州でも森林は現在、複数の目的を持つ資源として管理されています。
木材生産だけでなく
- 生物多様性
- 水資源
- 土壌保全
- レクリエーション
- 景観
- 気候変動対策
- 文化遺産
などが重視されています。
欧州環境機関は持続可能な森林管理について森林所有者や管理者が生態的、経済的、社会的な目的をバランスさせることが基本であるとしています。
つまり現在の欧州森林文化は昔ながらの薪や木材利用だけではありません。
伝統的な森林利用を基礎にしながら現代的な環境政策や森林管理技術を組み合わせたものになっています。
「人と森が共存する」という言葉だけでは比較できない
日本の里山と欧州の森林を比較するとき「人と自然の共生」という言葉だけでは不十分です。
なぜなら共生の方法が違うからです。
日本では集落周辺の森林を利用し農業と森林資源を循環させる仕組みが形成されました。
ヨーロッパでは森林を所有し伐採し、再生させ、木材を生産しながら、放牧、狩猟、保全など複数の目的を組み合わせる仕組みが発達しました。
どちらも「人間が自然を利用する」という側面を持っています。
同時に「自然資源を長期間利用するために管理する」という側面もあります。
薪ストーブから見る日本と欧州の森林文化
現代の薪ストーブを考えるとこの歴史は身近なものになります。
薪ストーブで薪を燃やす場合、薪は自然に生えてくるわけではありません。
森林から木を得る。
伐採する。
玉切りする。
薪割りする。
乾燥させる。
保管する。
そして燃料として使います。
この一連の工程は森林と家庭を直接つなぎます。
日本の里山文化では薪を得るための森林管理が農村生活の一部でした。
欧州でも薪の需要が森林管理方法の一つであるコッピス林を支えていました。
現代の薪ストーブはこうした長い森林利用の歴史をそのまま再現するものではありません。
しかし薪を使うことでエネルギーと森林の関係を直接見ることができます。
日本の里山と欧州の森林から分かること
日本とヨーロッパの森林文化を比較すると森林は単なる「自然」でも「木材生産の場所」でもなかったことが分かります。
森林は
エネルギー
であり
食料資源
であり
建築資材
であり
農業資源
であり
生活空間
であり
文化的景観
でもありました。
そしてそれぞれの地域社会が利用できる森林資源と自然条件に合わせて独自の仕組みを作りました。
日本では里山という複合的な景観が形成されました。
ヨーロッパでは多様な森林管理制度や共同利用制度が発達しました。
まとめ
日本の里山文化と欧州の森林文化は異なる歴史を持っています。
しかしその根底には共通する部分があります。
それは森林を生活の一部として利用してきたことです。
日本の里山では集落周辺の二次林、農地、ため池、草原などが一体となった景観が形成されました。
そこから薪、木材、食料、肥料などの資源が得られました。
また雑木林では木を定期的に伐採し切り株から出る芽を利用して森林を再生させる管理が行われました。
ヨーロッパでも薪や建築材への需要を背景にコッピス林が広く利用されました。
木を伐採した後、切り株などから再生する仕組みを利用して繰り返し木質資源を得ていました。
また欧州では森林の所有や共同利用、木材生産、放牧、狩猟、自然保護、レクリエーションなど多様な森林利用の制度が発達しました。
日本と欧州の森林文化は決して同じではありません。
日本の里山は森林だけではなく農地、ため池、草地、集落などが組み合わさった生活景観です。
一方、欧州では森林そのものを対象とした森林管理制度や林業技術が発達しました。
しかし両者を比較することで一つの重要な事実が見えてきます。
それは人間が森林を利用してきた歴史そのものが現在の森林景観の形成に関係しているということです。
日本の里山もヨーロッパのコッピス林も人間の利用と管理によって形成された森林環境の一例です。
そして薪の需要が減少すると薪を生産するための森林管理も減少しました。
日本では里山の利用低下が生物多様性や景観の変化につながり欧州でもコッピス林の衰退が自然的・文化的価値の喪失につながることが研究されています。
つまり森を守るということは単純に「人間が森から離れること」だけを意味するわけではありません。
どのような森林がどのような利用によって形成されてきたのかを理解することも重要です。
日本の里山と欧州の森林。
そこにはそれぞれ異なる歴史があります。
しかし両者に共通しているのは
森を利用することと森を維持することが長い間つながっていた
という事実です。
薪を使う文化もその歴史の一部です。
現代の薪ストーブで使う一本の薪も単なる燃料ではありません。
その背後には森林、伐採、再生、乾燥、運搬、そして人間と森との長い関係があります。
日本の里山文化と欧州の森林文化を比較することは単に「日本とヨーロッパの違い」を知ることではありません。
それは人間が森林から何を得てどのように森林を管理しどのような景観を作ってきたのかを知ることでもあります。
参考資料
- 環境省「里地里山の保全・活用」
里地里山の定義、構成要素、自然資源の利用、生物多様性、現在の課題など。
環境省「里地里山の保全・活用」 - 環境省「里地里山と生物多様性」
里地里山の生態系、自然資源、文化、地域の人間活動について。
環境省「里地里山と生物多様性」 - 環境省「Utilization and Management of the Satoyama Landscape」
伝統的な雑木林管理、コッピス管理、10~30年程度の伐採周期などについて。
環境省・Satoyama Initiative資料 - 環境省「令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
戦後のエネルギー革命、里山利用の減少、生物多様性への影響など。
環境省・令和7年版環境白書 - FAO「European Forest Sector Outlook Study」
欧州森林の歴史、森林管理、多目的利用、文化的価値について。
FAO「European Forest Sector Outlook Study」 - FAO「European forests and forestry」
欧州森林の歴史的変化、森林面積、再植林、森林の多目的利用など。
FAO「European forests and forestry」 - European Environment Agency「Forest management systems」
欧州における森林管理制度と持続可能な森林管理について。
European Environment Agency「Forest management systems」 - European Commission「Sustainable management of forests」
EUにおける森林の経済的・社会的・文化的役割と持続可能な森林管理について。
European Commission「Sustainable management of forests」 - European Parliament「Europe and the Forest」
欧州における森林管理の歴史、資源の持続的利用、森林政策について。
European Parliament「Europe and the Forest」 - Slach, Volařík & Maděra, “Dwindling coppice woods in Central Europe”
中央ヨーロッパにおけるコッピス林の歴史と近年の衰退、自然的・文化的価値について。 - “The rise and fall of traditional forest management in southern Moravia”
南モラヴィアにおける700年にわたる森林管理史とコッピス利用について。 - “Forests in common: Learning from diversity of community forest arrangements in Europe”
欧州各地の共同森林利用制度について。


